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大通どうぶつ通信 vol.20

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「ねこちゃんの慢性腎臓病(CKD)について」


はじめに
今回はねこちゃんの慢性腎臓病(CKD)についてお話します。
「腎不全」という病名は、ねこちゃんを飼っている飼い主さんなら一度は耳にしたことのある病名ではないでしょうか。
腎臓は「糸球体」という構造が集まってできています。ここで血液のろ過を行い、代謝産物や老廃物を尿として体外に排泄しています。
そのほかにも腎臓には、水や電解質(ミネラル)の調節、ホルモンの産生や調節、酸塩基平衡の調節などの機能があります。
「CKD」とは「3ヶ月以上持続する腎障害および糸球体ろ過量(GFR)の低下」と定義されている疾患です。そして「腎不全」とは、慢性腎臓病の子が、食欲不振、吐き気、体重減少など何らかの症状を発症した状態のことを言います。それが進行していくと、体の中に老廃物が蓄積し、水分やミネラルバランスが崩れた状態=尿毒症になっていきます。
CKDになり障害を受けた腎臓は正常に戻ることはなく、慢性的な経過をたどりながら死に至る病気です。CKDはねこちゃんの死因の上位を常に占めており、非常に一般的な病気であることからCKDの各段階での適切な治療管理が、ねこちゃんの寿命の延長につながります。
今回はCKDの原因・診断・治療についてご説明していきます。

1. 原因
CKDには様々な原因があり、その原因に対しての根本的な治療が可能であれば、CKDの悪化や進行を抑制することができます。
~原因としてあげられる主なもの~
① 先天性
② 遺伝性
③ 腎盂腎炎
④ 尿路閉塞
⑤ 薬剤性
⑥ 糸球体腎炎
⑦ ウイルス感染症

2. 診断
診断には以下にあげられるようなものがあります。
① 自宅での症状: 若い頃より水を飲むことが増えたように感じる、トイレの砂を変える頻度が増えた、など「多飲多尿」と呼ばれる症状が代表的です。
CKDの段階では明確な症状を示さず、慢性腎不全になると脱水して体重が減り、嘔吐や食欲不振などの消化器症状を示すようになり、症状が出始めるこの段階が最も多く診断されるタイミングでもあります。
② 血液検査:血液検査では以下の項目を参考にします
  1. ⑴ CRE(クレアチニン):CKDで増加。筋肉量の影響を受ける数値です(痩せて筋肉量が少ないと低下)。
  2. ⑵ SDMA:早期の腎機能低下を検出できます。しかし安定性に欠ける部分があります。
  3. ⑶ 貧血の有無:慢性腎不全ではステージが進むと貧血がでてきます。
  4. ⑷ 血液ガス:酸血症(血液が酸性に傾くこと)の確認。慢性腎不全では酸血症(アシドーシス)になります。
③ 尿検査:以下の項目を確認します。
  1. ⑴ 尿比重(尿の濃さ):CKDではうすくて臭いがしない尿になります=尿比重の低下
  2. ⑵ 蛋白質の有無(尿蛋白/クレアチニン比:UPC):CKDではたんぱく尿がでます(腎臓でのろ過機能の低下)。
  3. ⑶ 細菌性膀胱炎の有無
④ 血圧測定:高血圧の有無を確認します。病院に来院すると緊張するため、キャリーの中などで落ち着かせてから測定します。前肢やしっぽで何回か測定し、平均値をだします。
CKDの中でも蛋白尿や細菌性膀胱炎、高血圧を示す場合は慢性腎不全への進行が速い可能性がありますので注意が必要です。
⑤ エコー検査:左右の腎臓のサイズや血流の状態・構造の変化の有無を確認します。CKDでは進行に伴って腎臓は萎縮し、構造も崩れてきます。

3. CKDの治療管理
CKDはクレアチニンの数値などによって病期のステージが4段階に分類されていて、そのステージによって推奨されている治療があります。しかしステージは同じでも、個体ごとにそれぞれ異なった変化・進行を示すことが多いのが現状です。そのためその子その子の腎障害が起きている原因を明らかにし、CKDの進行に関与している要因を評価・確認して治療する必要があります。
~CKDのステージ分類とその症状~
ステージⅠ:先天的な腎構造の異常や、たんぱく尿が認められるが、血液検査は正常、一般的に無症状。
ステージⅡ:血液検査で軽度の数値上昇があるものの、症状はないか、あっても軽度。
ステージⅢ:嘔吐、食欲の低下、体重減少、貧血など様々な症状が出始め、積極的な内科療法が必要なる。
ステージⅣ:クレアチニン5.0以上、全身性の症状があり、QOLが著しく低下、尿毒症のリスクがでてくる。入院管理が必要になることも多い。
~様々な治療法~
① 食事療法:CKDのステージⅠではナトリウムを制限した食事(いわゆるシニア食)を、ステージⅡからはリン、タンパク質を制限した療法食をスタートします。
② 薬による治療:CKDの症状に応じて薬を処方します。
  1. ⑴ ACE阻害剤・テルミサルタン・アムロジピン:高血圧や尿タンパクが存在する場合に使用されます。ただし、脱水がある状態で投薬を続けると、最悪の場合急性腎不全を引き起こす可能性があります。その為、食欲の低下や吐き気があり脱水しやすい状態の子では使用を中止する必要があります。
  2. ⑵ 鉄剤・エリスロポエチン:造血作用のある薬です。腎性貧血がある場合に必要となります。
  3. ⑶ リン吸着剤:高リン血症があると食欲不振につながります。リンを制限した療法食だけではコントロールできないときにリンの吸着剤を使用し、血液中のリン濃度を下げます。
  4. ⑷ ベラプロストナトリウム(ラプロス):中程度のCKD(ステージⅡ~Ⅲ)の症例での使用が推奨されている新しい薬です。糸球体障害や尿細管間質の炎症・線維化の抑制に働きかけます。明確な治療効果について現時点では不明な点がある薬剤でもあり、今後さらなる情報がでてくると思われます。
  5. ⑸ ミルタザピン:食欲増進剤で、内服と耳に塗る軟膏の2種類があり、食欲不振の際に、3日に1回投薬します。
③ 点滴:CKDの子は腎臓での水分の再吸収がうまくできず、体が脱水しやすい状態にあります。脱水があると、食欲不振や嘔吐などの尿毒症症状が悪化します。飲水の機会を増やし、ウェットフードやパウチなどで水分を取っても脱水がある場合には点滴を実施します。点滴には皮下補液と静脈輸液の2種類があります。皮下補液は通院時だけでなく自宅でも実施できる輸液法で、脱水を補正し食欲の改善を図るために実施します。一方、静脈輸液は尿毒症の改善を図るために実施し、状態により1週間前後の入院治療が必要となることが多いです。

さいごに
ねこちゃんは症状を隠す動物であるため細かな変化に気付きづらいと思いますが、飲水の変化や尿量の変化を感じた際には早めに検査をしましょう。また、症状がなく元気であっても、慢性腎臓病は始まっている可能性もあります。当院では年1~2回の健診血液検査や定期的なCATドックをおすすめしています。ぜひこの機会にご検討してみてください。






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